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釧路地方裁判所 昭和53年(ワ)208号 判決

主文

一  第二〇八号事件、第八二号事件について

原告中央運輸有限会社の請求を棄却する。

原告中央運輸有限会社と参加人との間において、参加人が、同原告の被告シルバーフエリー株式会社に対する損害賠償債権のうち昭和五五年二月二八日訴外太洋産業株式会社に、同五六年三月二七日同原告にそれぞれ保険金を支払つたことにより代位取得した各損害賠償請求権合計金六、八三〇、五四〇円の債権を有することを確認する。

被告シルバーフエリー株式会社は参加人に対し、金六、八三〇、五四〇円および内金五、六三〇、五四〇円に対する昭和五五年二月二九日から、内金一、二〇〇、〇〇〇円に対する昭和五六年三月二八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

参加人のその余の各請求をいずれも棄却する。

二  第一〇号事件について

被告中央運輸有限会社は原告日産火災海上保険株式会社に対し、金九、一〇六、三九〇円およびこれに対する昭和五四年一一月二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

同原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第二〇八号事件、第八二号事件について、原告中央運輸有限会社、被告シルバーフエリー株式会社に各生じた費用は全部同原告の負担とし、参加人に生じた費用の二分の一を参加人の負担とし、その余は同原、被告らの負担とし、第一〇号事件について、原告日産火災海上保険株式会社、被告中央運輸有限会社に各生じた費用は全部同被告の負担とする。

この判決は、第二項(第一〇号事件)に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第二〇八号事件、第八二号事件について

1  原告

「被告は原告に対し、金一〇、七六〇、五四〇円および内金九、七六〇、五四〇円に対する昭和五三年五月三〇日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言。

「参加人の請求を棄却する。参加による訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決。

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

「参加人の請求を棄却する。参加による訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決。

3  参加人

「(一) 原告の請求にかかる金一〇、七六〇、五四〇円の債権中、金八、六三〇、五四〇円が参加人に属することを確認する。(二) 被告は参加人に対し、金八、六三〇、五四〇円および内金五、六三〇、五四〇円に対する昭和五五年二月二九日から、内金三、〇〇〇、〇〇〇円に対する同五六年三月二八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。参加による訴訟費用は原、被告の負担とする。」との判決。

二  第一〇号事件について

1  原告

「被告は原告に対し、金一〇、六二四、一二一円およびこれに対する昭和五四年一一月二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言。

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二  当事者の主張

一  第二〇八号事件について

1  請求の原因

(一) 運送契約の締結

(1) 原告は、トラツクによる運送業を営む有限会社であり、被告は、フエリーによる運送業を営む株式会社である。

(2) 原告は、昭和五三年五月三〇日、原告の従業員で自動車運転手である足澤晴信(以下、単に「足澤運転手」という。)を介して、被告との間で、訴外太洋産業株式会社(以下、単に「訴外太洋産業」という。)所有の冷凍イカ二五、三四四キログラム(以下、単に「本件イカ」という。)を積載した原告所有の冷蔵冷凍車(釧八八あ三七二号、最大積載量八、〇〇〇キログラム、以下、単に「本件車両」という。)を、青森県八戸港から北海道苫小牧港に向けて出航予定の被告所有のシルバークイーン号(船舶番号一一二四八六号、総トン数三、七六五・四一トン、以下、単に「本件船舶」という。)で右区間を海上運送する旨の契約(以下、単に「本件運送契約」という。)を締結した。

(二) 事故の発生

(1) 被告は、昭和五三年五月三〇日一二時頃、本件船舶(船長佐藤勇二、以下、単に「佐藤船長」という。)に本件車両等を積載したうえ、本件船舶を八戸港から苫小牧港に向けて出航させた。

(2) 本件船舶は、同日一六時三〇分頃、北緯四一度二八・五、東経一四一度三九・四付近において、折柄発達して東進してきた低気圧の影響による波浪により片舷が三〇度も傾くほどの動揺を起したため、本件船舶の船体中央線上の船首部分に保管されていた本件車両は、その場に転倒した(以下、単に「本件事故」という。)。

(3) そのため、本件車両は全損となり、積載していた本件イカも毀損する等の損害を受けた。

(三) 被告の責任

本件運送契約は、商法七六六条(同法五七七条)所定の物品運送契約に該当するところ、本件事故により原告の被つた後記損害は、物品が運送のために受けた損害というべきであるから、被告は原告に対し、右損害を賠償する義務がある。

(四) 原告の損害

(1) 車両損害         金四、〇〇〇、〇〇〇円

本件事故により本件車両は全損となつたため、本件車両の時価相当額の右損害を被つた。

(2) レツカー料          金一三〇、〇〇〇円

本件事故により本件車両は運転不能となつたため、原告は、訴外道東車体有限会社に苫小牧港から釧路市内所在中央ターミナルまで本件車両の運送を依頼し、昭和五三年七月五日頃、右訴外会社に対し右レツカー料として金一三〇、〇〇〇円を支払い右同額の損害を被つた。

(3) 積荷(本件イカ)損害   金五、六三〇、五四〇円

本件事故により本件イカが毀損し金五、六三〇、五四〇円相当の損害が生じたため、原告は訴外太洋産業に対し、右同額の損害賠償債務を負担するに至り、右同額の損害を被つた。

(4) 弁護士費用        金一、〇〇〇、〇〇〇円

原告は被告に対し、前記(1)ないし(3)の合計金九、七六〇、五四〇円の損害賠償債権を有するところ、本件訴訟は原告自身が訴訟追行することは困難であるため、弁護士である原告訴訟代理人に委任して訴訟追行することを余儀なくされた。そして右弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係にある範囲の金額としては金一〇〇万円が相当である。

よつて、原告は被告に対し、本件運送契約の債務不履行に基づく損害賠償として右合計金一〇、七六〇、五四〇円および内金九、七六〇、五四〇円(前記弁護士費用を除く。)に対する本件事故発生の日である昭和五三年五月三〇日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 被告

(1) 請求原因(一)の各事実は認める。

(2) 同(二)の(1)、(2)の各事実は認めるが、(3)の事実は不知。

(3) 同(三)の主張は争う。

(4) 同(四)の各事実は全部不知。

(二) 参加人

(1) 請求原因(一)、(二)の各事実は全部認める。

(2) 同(三)の主張は認める。

(3) 同(四)の(1)、(3)の各事実は認めるが、(2)の事実は不知。なお、後記二、1、(一)の(2)および(二)の(2)記載のとおり、参加人は、その後原告の依頼により保険による損害填補として本件事故による右請求原因(四)記載の原告の損害のうち、同(1)の車両損害の内金三〇〇万円、同(3)の積荷(本件イカ)損害金全額を支払つているから、右各同額の損害賠償請求権を保険代位によりそれぞれ取得することとなつた。

3  被告の抗弁

(一) 被告は、次のとおり、本件事故当時本件船舶による運送に関し注意を怠つたことはないから、本件事故の発生について過失はない。

(1) 本件事故当日、本件船舶出航前に被告が入手したNHK六時現在九時発表気象概況および気象協会八戸支部六時現在一〇時二〇分頃発表天気図等の気象情報によれば、当日午後の三陸沖、津軽海峡の気象・海象予報は、天候雨又は曇、風向東ないし北東、風速一〇ないし一五メートル波高二ないし三メートルであり、また、佐渡ケ島付近の低気圧は東へ毎時三〇キロメートルの速度で発達しながら移動し、最大風速は二〇メートル程度が予相され、当日夕方頃には東海上に抜ける見込みであつたから、当時航海に支障を来すような特別異常な情報はなく、本件船舶の発航を中止するような状況ではなかつた。その後、本件船舶出港時の当日一二時現在における八戸港の気象、海象状況は、天候雨、風向東、風力七、波高一、一メートルであり、航海中に予想される気象、海象状況は、若干波浪が強くなることは予想されたものの、海上運送法一〇条の二に基づいて作成されている運航管理規程に定められた発航中止の条件に達しないものであつた。なお、当時苫小牧港終起点の旅客船、自動車渡船は全て平常運航していた。因みに、当日NHK一二時現在一六時発表の天気概況によれば、「低気圧を中心に半径六〇〇キロの範囲内では風速一五ないし二〇メートル、二つの低気圧は東北東に進行中で夕方までに東海上に抜ける」旨の予報であつた。右のとおり、被告には、本件船舶の出航時における気象、海象状況の把握について過失はなく、かつ、出航中止の措置をとらなかつたことについても過失はない。

(2) 本件船舶は、昭和五三年五月三〇日一二時〇分、乗客六六名、車両四六台を積載して荒天準備完了後青森県八戸港から北海道苫小牧港に向け出航した。なお、本件車両の保管場所選定については、被告は本件車両が法定積載量の三倍強の過積であることは全く予想しなかつたので、通常通り到着順に各車両を乗船させた結果、本件車両は本件船舶の船体中央線上船首部分に保管されるに至つた。また、出航に際し、積載全車両について、通常施行している車両甲板装備の車両固縛用のカーストツパーを各車両の両側に各三本計六本装着して固縛する措置をとつた。同日一四時〇分頃、東寄りの風が強く吹きはじめたが、船体動揺は微弱であつた。同日一五時〇分頃、東寄りの風が次第に強まり波浪も高くなり船体が動揺しはじめたため、佐藤船長は、乗組員に指示して、バラスト漲水、アンチローリングタンクの水位適正確保、フインスタビライザーの作動開始等の減揺装置を作動させ、さらに波浪による衝撃と動揺を緩和するため進路調整、減速等の操船措置をとつて、本件船舶の船体動揺防止について万全の措置を講じるとともに、一等航海士、甲板手ら三名に車両甲板の巡視を行わせ、ウエツジ、カーストツパーの装着状況および車体動揺状況を点検させたが異常は発見されなかつた。同日一六時〇分頃、本件船舶が尻屋崎沖付近に到達した頃から、気象状況が急激に悪化し、不規則な潮流とともに船体動揺が激しくなつたため、佐藤船長は、一等航海士、三等航海士、甲板長、甲板手二名、甲板員二名に指示して、車両甲板の巡視とともにウエツジの増掛け、カーストツパーの増取り、オーバーラツシング措置等を行わせて車両転倒防止の措置を講じた。本件車両についても、計八個のウエツジの増掛け、計八本のカーストツパーの増取りを行つたが、オーバーラツシング措置は、当時激しい船体動揺のため、右作業を実施することは乗組員に極めて危険な状況下にあり不可能であつた。同日一六時二〇分頃、気象状況はますます悪化し、東寄りの風は風速二八ないし三〇メートル、波高は六メートルとなり、強大な波浪が激しい船体動揺を惹起したため、船体の傾斜度は片舷三〇度に達した。その間佐藤船長は、本件船舶の船体動揺緩和、積載車両の転倒防止保全に努めたが、同日一六時三〇分頃、本件車両はカーストツパー切断により転倒するに至つた。右のとおり、本件事故当時、本件船舶が遭遇した荒天は、通常予測不可能な突発的かつ局地的な異常気象によるものであり、しかも右荒天遭遇に際し、佐藤船長は、前記のとおり、積載車両の転倒等の防止のため可能な限りの措置を講じたにもかかわらず本件事故が発生したものであるから、被告には過失はない。

(3) 以上のとおり、被告は、本件事故当時、本件船舶による本件車両等の運送に関し注意を怠つたことはなく、本件事故は専ら原告の過失により発生したものである。即ち、

(イ) 本件車両の法定最大積載量は八、〇〇〇キログラムであるところ、原告は右積載量の三倍強の二五、三四四キログラムの本件イカを過積みしたため、車体自体の重心が高くなり不安定状態になつているところに船体動揺の外力が加わり、本件車両が転倒して本件事故が発生したものであつて、特に本件事故のように荒天による船体動揺に際しては、本件車両の車軸、スプリング等車体自体が著しい不安定状態になり異常なストレスが作用して転倒するに至ることは如何なる措置を施しても免れ得ないものである。

(ロ) また、本件車両のような三倍強の過積み車両があることは、被告の予想し得るところではないから(なお、被告には本件車両の積荷の種類、積載量の点検、確認の義務はない。)、原告としては、本件車両の乗船時および航海中、運送人の被告ないし佐藤船長に対しその旨を告知して安全配慮を促すべき義務が信義則上要請されるところ、原告および足澤運転手はこれを怠つたものである。

(二) 仮に、原告が本件事故により被つた損害について、被告にその賠償義務があるとしても、前記(3)、(イ)、(ロ)記載のとおり、本件事故の発生については原告にも過失があるから、損害賠償額を定めるについてはこれを斟酌して過失相殺がなされるべきである。

4  抗弁に対する原告、参加人の認否および反論

(一) 抗弁(一)、(二)の各主張は争う。

(二) 被告には、次の点において、本件事故の発生について過失がある。

(1) 気象状況の把握の過失

佐藤船長は、本件事故当日一〇時に六時現在の気象状況を入手しているが、右気象状況によると、当時、日本海の低気圧は、発達しながら東へ毎時三〇キロメートルの速さで移動し、同日午後には風速一〇ないし一五メートル、波高二ないし三メートルになることが予想されたのであるから、刻々複雑に変化する気象状況を把握すべきであるのにも拘らず、同日午後三時には片舷七ないし八度に傾斜する程になつたのにこれを怠り、ようやく午後四時に至り同日正午現在発生の気象状況を把握したにすぎない。そのため時すでに遅く、片舷三〇度も傾く程に気象状況が極めて悪化していたものである。ところで、当日、函館気象台一二時一〇分発表によれば風速一五ないし二〇メートル、波高四ないし五メートル、八戸測候所一一時〇五分発表によれば風速一五ないし二〇メートル、青森地方気象台一一時五五分発表によれば風速一五ないし二〇メートルと予想されていたのである。このように出航直前、直後に強風波浪注意報が出されており、また、V・H・F放送では毎時二五分おきに気象状況が発表され、本件船舶は航海中いつでも傍受し得る状態にあつたのである。それにも拘らず、佐藤船長は、刻々変化することが当然予想される気象状況を把握調査することがなかつた。もし、被告ないし佐藤船長が気象状況について充分な注意を払つていれば、出航を一時見合せるか、出航後航走を中止するか、または他港に避難する等して、本件事故の発生を未然に防止し得たはずであり、被告には右の点に過失がある。

(2) オーバーラツシング装置不設置の過失

被告は、車両甲板の巡視、カーストツパーの増取り等を行い可能な限りの措置を講じた旨主張するが、本件事故当時のように荒天等により船体が片舷三〇度まで傾斜し動揺が甚しい場合には、単にカーストツパーを二本増設(合計八本)するのみでは不足であり、オーバーラツシング装置を設置することにより本件車両の転倒を予防して本件事故の発生を未然に防止すべきであつたのにこれを怠つたものであり、被告には右の点に過失がある。

(3) 本件車両の保管場所選定の過失

被告は、本件車両を本件船舶の船体中央線上の船首部分に保管したが、船首部分は、船舶の縦揺れの最も激しい部位であり、横揺れ、上下部、左右部が一度に加つた場合にはその動揺は一瞬にして極限的な揺れを惹起することが予想されるのであるから、本件イカ約二五トンを積載した本件車両は船首部分に保管すべきではなく、中央線上の中央部分に保管すべきであるのにこれを怠つた点に被告には過失がある。

(4) 過積みと本件事故との因果関係の不存在

被告は、本件事故の原因は、専ら本件車両の過積みに基因するものである旨主張するが、フエリーに積載されている車両の転倒は、主に船舶の横揺れ、縦揺れ、上下部、左右部等によつて惹起される車両の積荷の移動が原因であるから、過積み自体は本件車両転倒の直接の原因ではない(過積みは、カーストツパー等の固縛装置がその重量と対応する強度との比較において問題となるにすぎない。)。これを要するに、過積み自体は車両の揺れをもたらすものではないから、過積みが本件車両転倒の直接の原因ではない。

(5) 過積みの告知義務の不存在

被告は、足澤運転手が過積みの事実を被告ないし佐藤船長に事前に告知して、本件事故の発生を未然に防止すべき義務がある旨主張するが、当時、足澤運転手は、本件車両の積載物とその重量を被告備付けの航送申込書に「冷いか、二五トン」と明記して被告に提出し、かつ、右申込書は本件船舶の事務長の手許に保管してあり、佐藤船長もこれを容易に確認し得たのに自らこれを怠つたものであるから、原告には被告主張のような告知義務違反はない。被告としては、前記重量の本件イカを積載した本件車両の運送を異議なく承諾した以上、爾後の本件車両の保管責任は、専ら被告にあるものというべきである。

二  第八二号事件について

1  請求の原因

(一)(1) 参加人は、訴外太洋産業との間で、昭和五三年三月一日、訴外太洋産業所有の冷凍イカについて運送保険契約を締結した。

(2) 参加人は、訴外太洋産業に対し、昭和五五年二月二八日、右保険契約に基づいて、本件事故による原告主張の前記一、1、(四)、(3)の本件イカの損害金五、六三〇、五四〇円を支払い、同日、訴外太洋産業が原告に有する右同額の損害賠償請求権を保険代位により取得した。

(二)(1) 参加人は、原告との間で、昭和五三年五月二六日、本件車両について自動車保険契約を締結した。

(2) 参加人は、原告に対し、昭和五六年三月二七日、右保険契約に基づいて、本件事故による原告主張の前記一、1、(四)、(1)の本件車両の損害金四、〇〇〇、〇〇〇円のうち金三、〇〇〇、〇〇〇円を保険填補相当額として支払い、同日、原告が被告に対して有する右損害賠償請求権のうち金三、〇〇〇、〇〇〇円を保険代位により取得した。

(三) しかるに、原、被告は、参加人の右保険代位による各損害賠償請求権の行使を争つている。

(四) よつて、参加人は、原告に対し、原告の被告に対する前記(一)の(2)、(二)の(2)の各損害賠償請求権のうち、右保険代位により参加人が取得した合計金八、六三〇、五四〇円の損害賠償債権が参加人に属することの確認を求めるとともに、被告に対し、右保険代位による損害賠償債権合計金八、六三〇、五四〇円および内金五、六三〇、五四〇円に対する保険金支払の翌日である昭和五五年二月二九日から、内金三、〇〇〇、〇〇〇円に対する保険金支払の翌日である昭和五六年三月二八日からいずれも支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 原告

請求原因事実は全部認める。

(二) 被告

(1) 請求原因事実は全部不知。

三  第一〇号事件について

1  請求の原因

(一) 原告は、火災海上に関する損害保険を業とする株式会社であり、被告は、トラツク等による物品貨物の運送を業とする有限会社である。

(二) 昭和五三年五月三〇日午後一二時頃、被告の従業員足澤運転手は、被告所有の本件車両に本件イカを積載して訴外シルバーフエリー株式会社(以下、第一〇号事件においては、単に「訴外シルバーフエリー」という。)の所有かつ運行の本件船舶に乗船し、青森県八戸港から北海道苫小牧港に向けて出港した。

(三) 同日一六時三〇分頃、本件船舶は、北緯四一度二八・五東経一四一度四二・八付近において、海上波浪による荒天に遭遇し、その際、本件車両が転倒したため、周囲に乗船していた別表被害車両欄記載の各車両にそれぞれ接触し、その結果同表被害者名欄の各被害者に対し、同表被害額欄記載の各損害を与え、合計金一八、二八四、八六一円相当の損害を被らせた。

(四) ところで、本件事故の原因は、被告ないし足澤運転手が本件車両の法定最大積載量八、〇〇〇キログラムを三倍強も超えた二五、三四四キログラムの本件イカを積載した極端な過積みをした過失によるものであるとともに、訴外シルバーフエリーにも本件車両の乗船に際しかかる極端な過積を事前にチエツクして、乗船を拒否するか、または、法定最大積載量を遵守させるための善後策等の適切な措置を講ずべきであつたのにこれを怠り、本件車両を漫然乗船させた過失にもよるものであるから、これら両者の共同不法行為により本件事故は惹起したものである。

(五) そして、本件事故における被告と訴外シルバーフエリーとの過失割合は、七対三と評価するのが相当である。

(六)(1) ところで、原告は、昭和五三年四月一〇日、訴外シルバーフエリーとの間で、被保険者訴外シルバーフエリーとして本件船舶の運行に際し発生することあるべき事故により生ずる損害を填補するため自動車航送船賠償責任保険契約を締結した。

(2) 原告は、右保険契約に基づいて、本件事故による別表被害者名欄記載の各被害者らに対し、同表支払日欄記載の日時に、同表支払保険金欄記載の各保険金(合計金一五、一七七、三一七円)を支払つた。従つて、原告は、右保険金支払額のうち被告の前記過失割合七割に相当する金一〇、六二四、一二一円について、右支払と同時に、商法六六二条により前記各被害者らが被告に対して有する損害賠償請求権を代位取得した。

(七) よつて、原告は、被告に対し、右保険代位により取得した損害賠償債権金一〇、六二四、一二一円およびこれに対する原告が前記各被害者らに支払つた最終日の翌日である昭和五四年一一月二日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)、(二)の各事実は認める。

(二) 同(三)の事実中、本件事故が発生したことは認めるが、本件車両が、別表被害車両欄記載の各車両に接触したことおよび損害額は否認する。

(三) 同(四)の主張は争う。なお、訴外シルバーフエリーは、本件車両に約二五トンの本件イカが積載していることを承知して、被告と本件運送契約を締結したものであるから、本件車両が転倒しないように防禦措置を講ずべき義務があるのにこれを怠つた専ら訴外シルバーフエリーの過失により本件事故は発生したものである。

(四) 同(五)の主張は争う。

(五) 同(六)の各事実は不知。

第三  証拠(省略)

理由

一  第二〇八号事件、第八二号事件について

1  運送契約の締結について

前記第二、一、1の請求原因(一)、(1)、(2)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  本件事故の発生について

前記第二、一、1の請求原因(二)、(1)、(2)の各事実は、当事者間に争いがなく、原本の存在、成立ともに成立に争いのない甲四号証、証人千葉基の証言および原告代表者本人尋問の結果によると、本件事故により本件車両および本件イカが毀損したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

3  被告の責任について

(一)  本件運送契約は、本件イカを積載した本件車両の運送を主たる契約内容とするものであるから、右契約については商法七六六条(同法五七七条)が適用されるところ、本件事故により本件車両および本件イカが毀損したことによる損害は、右法条により運送品が運送のために受けた損害に該当するものである。

(二)  そこで、前記第二、一、3の被告の抗弁(一)の免責(無過失)の抗弁について判断する。

前掲各証拠並びに原本の存在、成立ともに成立に争いのない甲一号証、二号証の一、二、三、四号証、一二号証、乙一三号証、成立に争いのない甲一三ないし一五号証、乙一号証、二号証の一ないし八、四号証の一六、五号証、七ないし一一号証、一四号証、二四号証、証人足澤晴信の証言の一部および証人佐藤勇二、同篠田栄介の各証言を総合すると、次の事実が認められる。即ち、

(1) 原告の従業員の足澤運転手は、昭和五三年五月二九日朝、訴外太洋産業大船渡工場において、原告の暗黙の了解の下に本件車両に本件イカ二五、〇〇〇キログラムを積載したうえ、同日二三時頃青森県八戸に着き、翌三〇日午前九時頃、八戸港の被告の待合室において、同所備付けのバス・トラツク航送申込書に本件車両の登録番号のほか、積荷「冷いか」、積載重量「25」屯等と所要事項を記入のうえ、車検証と共に被告の受付窓口に提出した。被告の窓口係員は、本件車両の積荷が法定最大積載量を約三倍も超える二五トンと異常な過積みであることについて、これを看過し何ら異議を留めることなく、右航送申込書を受付けたうえ乗船券を発行したことにより、こゝに本件運送契約が原、被告間に締結された。その後右航送申込書は、被告の営業担当者から本件船舶の事務長に引渡され、右事務長において法定の乗船名簿に代るものとしてこれを保管していたが、事務長は、本件車両が異常な過積み状態であることについては、これを看過し何ら佐藤船長に報告することなく、佐藤船長も右航送申込書を特に調査検討することはしなかつた。

(2) 同日一一時頃、本件船舶乗組員は、受付順に従つて順次航送車両を本件船舶の車両甲板に乗船させたが、本件車両は比較的横揺れの少い本件船舶の中央線上の船首部分ランプウエイ付近第三線に保管されることになつた。そして、本件船舶乗組員は、発航前、本件車両の各車輪に車止めのウエツジを掛け、車両前後に各二本計四本の自動車固縛用のカーストツパーを装着して本件車両を固定する措置をとつた。

(3) 本件船舶は、当時、八戸・苫小牧間一日一往復の就航で、八戸港一二時出発苫小牧港二一時到着、苫小牧港二三時出発八戸港翌日八時到着が定時運航時間であり、本件事故当日も平常運行が予定されていた。そして、当日、本件船舶出港前に被告が入手した気象海象情報は、被告が気象海象情報提供に関する契約を締結していた訴外気象協会八戸支部から、当日一〇時三〇分頃提供された当日六時現在の天気図および当日の予報とNHK第二放送九時一〇分発表の当日六時現在の気象庁天気予報部の天気概況に基づいて被告係員が作成した天気図であつた。その結果、当日午前の気象海象状況は、八戸港一〇時現在、天気雨、風向東、風速毎秒一三メートル、波高一、一メートル、視程一〇キロメートル、尻屋崎九時現在、天気雨、風向東、風速毎秒一四メートル、波高二ないし三メートル、視程一〇キロメートル、恵山岬九時現在、天気雨、風向東、風速毎秒七メートル、波高二ないし三メートル、視程一〇キロメートルであり、さらに、当日午後の三陸沖および津軽海峡における予想される気象海象状況は、天気曇のち雨、風向東、風速毎秒一〇ないし一五メートル、波高二ないし三メートル、視程一〇キロメートルであつた。また、当時、日本海(佐渡ケ島付近)にあつた二つの低気圧(九九八ミリバール)が、発達しながら東へ毎時三〇キロメートルの速度で移動し、当日夕方頃には太平洋東海上に抜けることが見込まれており、そのため三陸沖、津軽海峡に海上強風警報が出され、風速は毎秒二〇メートル程度で海上は波が次第に高まることが予想されていた。当時、被告としては、右情報に基づいて、風速、波浪はともに強くなることは予測されるものの、特に天候悪化は予想されないものと判断して、他に情報の入手はしなかつた。ところで、被告においては、所属船舶の発航の可否は、船長と運航管理者との協議によつて最終的に決定することになつており、その場合の準則として、海上運送法一〇条の二に準拠した被告制定の運航管理規程に基づく八戸・苫小牧航路の船舶運航基準が定められており、これによると、八戸港口付近において風速毎秒二〇メートル以上、波高四メートル以上、視程五〇〇メートル以下の条件のいずれか一つに達した場合、または、運航中に遭遇する気象海象状況が、風速毎秒二五メートル以上、波高五メートル以上の条件に達した場合、船長は、発航地の発航を中止すべき旨定められているところ、当時の気象海象状況は、前記のとおり、右船舶運航基準上の発航中止の基準条件のいずれにも達していなかつたことから、運航管理者代理の訴外永井弘夫は、通常運航による発航を可と判断して、本件船舶の発航の可否について特に佐藤船長と連絡協議をしなかつた。また、佐藤船長も同様に本件船舶の発航を中止する必要なきものと判断して、特にその点について連絡協議することなく荒天準備のうえ、本件船舶に旅客六六名および車両四六台を積載して、一二時〇分定時に発航した。

(4) 本件船舶発航当時の気象海象情報は、被告が入手した前記情報のほか、函館海洋気象台九時観測一二時一〇分発表の「(海上強風警報)発達中の低気圧九九六ミリバール、北緯三九度東経一三九度、東北東三〇キロメートル。北海道南西ないし南方海上東のち北寄りの風最大二〇メートル。(予報)東のち北東の風毎秒一五ないし二〇メートル、曇時々雨、視程六ないし一〇メートル、波高四ないし五メートル」との旨の海上警報および気象海象予報、青森地方気象台一一時五五分発表の「海上と海岸地方では今日から明日のはじめまで北東の風が強く、海上では波が高く、しけますので船は注意して下さい。低気圧が酒田沖にあつて東北東に進んでおり、今夜には青森県沖に達する見込みです。このため海上ではしけるでしよう。最大風速は海上、海岸で毎秒一五ないし二〇メートルの見込みです。」との旨の海上海岸強風波浪注意報、八戸測候所一一時五五分発表の「海上と海岸地方では今日から明日のはじめまで北東の風が強く海上では波が高くしけますので船は注意して下さい。低気圧が酒田沖にあつて東北東に進んでおり今夜には青森県東方沖に達する見込みです。このため海上ではしけるでしよう。最大風速は海上海岸で毎秒一五ないし二〇メートル」との旨の強風波浪注意報、尻屋崎灯台一二時二五分発表の「風向東、風速毎秒一六メートル、天気雨、視程五キロメートル、風浪五、うねり階級三」との旨の船舶気象通報が、それぞれ出されていた。なお、NHK第二放送一六時発表の当日一二時現在の気象庁天気予報部の天気概況は、当時、北緯三九度、東経一三九度に九九七ミリバールの、北緯三六度東経一三九度に九九四ミリバールの二つの低気圧があり、時速三〇キロメートルで東または東北東に進み、夕方までには太平洋東海上に抜ける見込みであり、右低気圧を中心に半経六〇〇キロメートルの範囲内では風速一五ないし二〇メートルとなる旨の予報をしている。

(5) 本件船舶が、八戸港出港後本件事故発生直前までの間、航行中に遭遇した具体的な気象海象状況は、大略次のとおりであつた。即ち、当日一三時三〇分頃、物見崎沖付近において、天気雨、風向東、風速毎秒一五メートル、ウネリ階級二、船体動揺傾斜度片舷二ないし三度となり、一四時頃からは、東風が強くなり船体動揺が継続するようになり、一五時頃には、船体傾斜度は片舷七ないし八度となつた。その後、一六時〇分頃、尻屋崎沖付近において、天候が急変し、天気雨、風向東、風速毎秒一八ないし二五メートル、ウネリ階級四、船体傾斜度片舷一五ないし二〇度となり、さらに、一六時二〇分頃には、急激に天候が悪化し、風速毎秒二八ないし三〇メートル、波高約六メートルの強大な波浪となり、船体傾斜度も数回にわたり最大で片舷三〇度に達する程になり、一六時三〇分頃、北緯四一度二八・五分東経一四一度三九・四分付近海上(尻屋崎沖七一度九海里の地点)において、本件事故が発生するまで継続した。

(6) そして、本件船舶の船長が、前記(5)のような気象海象等の状況に対処してとつた措置は、大略次のとおりであつた。即ち、佐藤船長は、当日一四時から東風が強くなり船体動揺が継続発生してきたことに対処して、一四時から一五時までの間、本件船舶の減速、進路調整等により船体動揺の緩和の操船措置をとるとともに、重心安定用のバラスト漲水、横揺制禦用タンク(いわゆるアンチ・ローリングタンク)の適正水位確保、自動安定ひれ(いわゆるフイン・スタビライザー)の作動開始等の減揺装置を作動操作して、本件船舶の船体動揺軽減措置を講じ、さらに、車両甲板部の担当の一等航海士ら乗組員に命じて、大型車両全部について車両固縛用のカーストツパー、車止め用のウエツジのそれぞれ増掛けを行わせた。本件車両についても、カーストツパーを車両両側に各二本増掛けした。なお、右に使用した本件船舶の車両甲板装備の自動車固縛装置であるT四型単式カーストツパーの強度は、安全使用荷重二、二五〇キログラム、破断荷重(ワイヤ破断)九、〇〇〇キログラムであつた。ところで、一六時頃から急激に気象海象状況が悪化したことから、船体動揺が激しくなつたため、佐藤船長は乗組員に命じて、車両転倒防止のために車体をマニラロープで車両甲板天井につり上げるいわゆるオーバーラツシングを装着する作業を開始させたが、たまたま一等航海士から船体動揺が激しく車両転倒の危険がある旨の報告を受け、佐藤船長が車両甲板に赴いた時には、本件車両が急に異常な動揺をはじめたためにオーバーラツシング装着の作業を本件車両上で行うことは極めて危険であり不可能な状態であつた。そこで佐藤船長は、すでにオーバーラツシングの装着を完了していた三、四台以外の車両については、本件車両を含めてオーバーラツシングの装着作業を続行することを断念した。そして、その約一〇分後の一六時三〇分頃、車両甲板中央線の船首ランプウエイ付近第三線に保管してあつた本件車両が、車体前部装着のカーストツパー全二本のワイヤーストツパーが切断した結果、右に横転するに至つたが、その際の本件車両の反復移動、接触等の衝撃により、本件車両の右側に保管してあつた第二線の前後二台、その右側第一線の一台、本件車両後方第三線の一台、左側第四線の一台、その左側の一台計六台の車両(別表番号1ないし6の被害車両欄記載の車両)に順次接触して毀損させるとともに、本件車両も車体運転席、荷台等が破損し、積荷の本件イカが車両甲板に散乱して毀損するに至るという本件事故が発生した。

(7) ところで、佐藤船長が、八戸港発港後本件事故発生の一六時三〇分までに入手した気象海象情報は、前記(4)記載の尻屋崎灯台一二時二五分発表の船舶気象通報およびNHK第二放送一六時発表一二時現在の気象庁天気概況のほかは、右尻屋崎灯台の定時観測発表の船舶気象通報のみであつた。そして、右船舶気象通報による気象海象情報は、〈1〉一三時二五分、風向東、風速毎秒一六メートル、天気雨、視程五キロメートル、風浪五、うねり階級三。〈2〉一四時二五分、風速毎秒一五メートル、その他は〈1〉に同じ。〈3〉一五時二五分、風速毎秒一七メートル、視程三キロメートル、その他は〈1〉に同じ。〈4〉一六時二五分、風速毎秒九メートル、視程三キロメートル、その他は〈1〉に同じ。というものであつた。しかし、本件船舶は、一六時頃から、右気象海象情報とは異なる前記(5)のような急激な荒天変更に遭遇し、船体動揺も船体傾斜度片舷三〇度に達する程の大きな動揺が数回発生するに至り、それまで比較的揺れの少なかつた本件車両が急に大きく揺れ出し、一六時三〇分、本件船舶が北緯四一度二八・五分東経一四一度三九・四分付近海上において、遂に本件車両が右に横転して本件事故が発生するに至つた。以上の事実が認められ、右認定に反する足澤晴信の証言は前掲各証拠に照らしてにわかに信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、右認定の(1)ないし(7)の各事実に基づいて、本件事故発生について被告が無過失であるか否かについて検討する。

イ 前記(2)の事実によれば、本件車両は、たまたま順次乗船の結果とはいえ、比較的動揺の少い個所である本件船舶の中央線船首部付近に保管されていたものであるから、原告主張のような本件車両の保管場所選定について、被告および佐藤船長には過失はないものというべきである。

ロ 前記(3)、(4)の各事実によれば、被告が当時入手した気象海象情報のほかに、前記(4)のような他の気象海象情報を検討しても、低気圧の影響により三陸沖、津軽海峡方面に海上強風注意報が出されており、天候が悪化し最大風速が毎秒二〇メートル程度になることは予測し得たものの、本件船舶が本件事故直前に遭遇したような異常な荒天気象は予測し得なかつたものというべく、却つて、後記ハのとおり、本件事故当時の異常な気象海象状況は突発的、局地的なものであつたことが推認されるから、原告主張のような本件船舶発航時の気象海象情報の蒐集、把握およびこれに基づく本件船舶発航措置について、被告および佐藤船長には過失はないものというべきである。

ハ 前記(5)の事実によれば、本件船舶が一二時〇分八戸港発航後一五時頃までの間の気象海象状況は、特に異常は認められず、前記(7)のとおり、尻屋崎灯台の毎時二五分観測の一二時から一五時までの定時船舶気象通報によつても、異常荒天変化を予測させる情報は見当らない。そして本件船舶の船体動揺も、一四時頃から船体傾斜度は片舷二ないし三度で継続的に発生し、一五時頃には片舷七ないし八度と増加してきたが、なお異常を予測させるものではなかつた。しかるに、一六時頃から急激に天候が悪化し、風速毎秒一八ないし二五メートル、ウネリ階級四、船体傾斜度片舷一五ないし二〇度となり、一六時三〇分頃には、さらに天候が悪化し、風速毎秒二八ないし三〇メートル、波高六メートル、船体動揺最大傾斜度片舷三〇度に達するようになつた。なお、当時の気象海象情報として、前記(4)のとおりのNHK第二放送一六時発表一二時現在の気象庁の天気概況および尻屋崎灯台一六時二五分観測の定時船舶気象通報があるが、これらによつても、本件船舶が遭遇した右のような異常な荒天を予測しうる情報は見当らない。してみると、当日一六時頃から本件船舶が遭遇した気象海象状況は、極めて突発的、局地的な現象であると推認せざるを得ないから、原告主張のような本件船舶の運航継続を中止し、反転、避泊、寄港等の措置をとることなく航行を続行したことについて、被告および佐藤船長には過失はないものというべきである。

ニ 前記(6)の事実によれば、佐藤船長は、一四時から一五時頃までの間、同(6)記載のような船体動揺緩和のための操船措置および減揺諸装置の作動操作等を実施して、本件船舶の船体動揺軽減措置を講じるとともに、本件車両について自動車固縛装置のカーストツパーを本件車両側部に左右各二本計四本増掛けを実施し合計八本のカーストツパーをもつて本件車両を固縛する措置をとつているが、右各措置はいずれも適切であるから、この点について被告および佐藤船長には過失はないものというべきである。なお、右カーストツパーは、安全使用荷重二、二五〇キログラム、ワイヤー破断荷重九、〇〇〇キログラムであり、かつ、当時材質的欠陥があつたと認めるべき特段の証拠もないから、被告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙一二号証によると、本件車両が法定最大積載量八、〇〇〇キログラムを順守する限り、その荷重に耐えて本件車両を固縛することが可能であつたものと推認される。ところで、佐藤船長は、本件車両についてオーバーラツシングの装着を実施しなかつたものであるが、本件車両が、後記ホのとおり法定最大積載量を三倍強も超える過積みであつたのに、漫然被告がその航送申込みを受付けて右過積み状態の本件車両の運送契約を締結した以上、船長が本件車両の事実を了知していたか否かにかかわらず、被告および佐藤船長は本件車両を右約旨に従い安全に目的地の苫小牧港まで運送する責任があるから、カーストツパー装置のみをもつてしては、前記のような著しい過積み状態にある本件車両の転倒を防止することは困難であつたものと推認される本件においては、本件船舶が船体動揺を次第に増大してきた一五時頃には、本件車両について最優先にオーバーラツシングの装着作業を実施し、転倒防止等その安全を期すべき義務があるのにこれを怠り、一六時過ぎに至り天侯が急変してからはじめてオーバーラツシングの装着作業を実施しようとしたものの、すでに本件車両の動揺が激し過ぎて右作業自体が危険であると判断しこれを断念せざるを得なくなつたものであつて、佐藤船長の右措置は、本件車両についてオーバーラツシングの装着作業を実施するのがいささか遅過ぎた結果その時機を失したものというべきであり、佐藤船長にはこの点について過失があるものといわざるを得ない(なお、この点について、仮に、オーバーラツシングの装着を実施したとしても、本件車両の異常な過積み状態からみて、右作業に使用するマニラロープが荷重に耐えず切断することが一応推測され得るが、この点についての立証責任を負担する被告としては、その立証を尽さない以上〈証人佐藤勇二の証言のみでは不充分である。〉、無過失の免責は得られないものというべきである。)。

ホ 前記(1)の事実によれば、原告の従業員足澤運転手は、本件車両の航送申込みに際し、被告備付けのバス・トラツク航送申込書に所定の記載事項を記入して本件車両の運送を申込んだが、その際右航送申込書の車種欄に「トラツク」、積荷欄に「冷いか」、積載重量欄に「25」屯と明記した。被告の窓口係員は右航送申込書について特に異議を留めることなく受付けたうえ、回数券により規定運送料金を領収したものである。ところで、被告としては、車両の運送料金算定基準が車長単位であつて車両重量ではないこともあつて、従来若干の過積み状態については、慣行的に黙認してきたこと等の事情があつたために、被告の窓口係員が安易に本件車両の航送申込みを受付けたものと推測されるが、しかしながら、車両重量一一、六八〇キログラム、車長一一・八九メートル、車幅二・四九メートル、車高三・四五メートルの冷蔵冷凍車である本件車両が、法定最大積載量八、〇〇〇キログラムを三倍強も超過する冷凍イカ二五、三四四キログラムを積載して異常に過積み状態になつていたのであるから、被告としては、足澤運転手の右航送申込みを拒否し、右過積み状態の改善是正を待つてからこれを承諾すべきであるのにこれを怠り、右過積み状態を看過して漫然本件車両の右運送契約を締結したことは、運送人として被告には過失があるものといわざるを得ない。勿論、本件車両が異常な過積み状態にあることを熟知しながらあえて航送申込みをした足澤運転手の過失はいうまでもないところであり、かつ、自己の従業員である足澤運転手の右過積み行為を黙認しこれを放任していたものと推認される原告の過失もこれまた重大であるといわざるを得ない。

結局、右イないしホにおいて検討認定した各事実を総合すると、本件事故発生の原因は、当日一六時過ぎ頃からの突発的、局地的な天候急変により、一六時三〇分頃には最大風速毎秒三〇メートル、最大波高六メートルにも及ぶほどの異常な荒天下において、本件船舶の船体動揺が最大傾斜度片舷三〇度に達するほど増大したため、本件車両前部に装置してあつたカーストツパー全二本のワイヤーが、いずれも切断したことに起因するものであるが、右切断の原因は、本件車両が法定最大積載量の三倍強にも及ぶ異常な過積み状態となつたため、車両重心が高くなつて本件車両自体が不安定状態になり、そのために本件船舶の過大な船体動揺に伴う異常な車両動揺を生じ、カーストツパーにその破断荷重を超える外力が加つたことによるものと推認されるところ、前示認定のニ、ホの各事実によれば、本件事故発生について被告が無過失であつたとはいえず、他に右認定を左右し被告の無過失を認めるに足りる証拠はない。してみると、被告の免責(無過失ないし不可抗力)の抗弁は理由がないことに帰するから、被告は、原告が本件事故により被つた損害について、商法七六六条(同法五七七条)に基づいて本件運送契約上の債務不履行責任として、これを賠償する義務があるものというべきである。

(三)  つぎに、被告の抗弁(二)の過失相殺の抗弁について判断する。

前記(二)、ホで判断したとおり、本件事故の発生については、原告にも過失があつたことは否めないところであり、本件事故の発生における過失割合は、右過失の程度に鑑みて原告六割、被告四割と認めるのが相当である。

4  原告の損害について

(一)  車両損害    金三、九〇〇、〇〇〇円

原本の存在、成立ともに争いない甲二号証の一、四号証および原告代表者本人尋問の結果によれば、本件車両は、本件事故により横転し長時間反復衝撃を受けたため、保冷ボデー(冷凍機付)が全壊し、運転台もフロントドアー、フロントウインドガラス等が損壊したほか、リヤーフエンダー、燃料タンク、デイスクホイール、タイヤ、ブレーキエアータンク、ステアリング等が損壊しフレームが屈曲したため、本件車両の残存価格は金一〇〇、〇〇〇円と見積られ、修繕費が右残存価格を超過することが明らかであるから、本件車両は全損と看做評価し、これをもつて本件運送契約の運送品である本件車両の引渡予定日到達地における時価と認定するのが相当であると解するところ、本件車両の本件事故当時の時価は金四、〇〇〇、〇〇〇円であつたことが認められるから、本件運送契約の債務不履行である本件事故により本件車両が毀損したことによる損害は、右時価より本件車両の前記残存価格金一〇〇、〇〇〇円を損益相殺により控除した金三、九〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

(二)  積荷(本件イカ)損害

成立に争いのない甲二号証の一(原本の存在、成立とも)、一一号証、証人千葉基の証言により真正に成立したものと認められる甲六ないし八号証、証人千葉基の証言および原告代表者本人尋問の結果によると、原告は、訴外太洋産業との間で、昭和五三年五月二九日、本件イカ二五、三四四キログラム(三、一六八箱、訴外太洋産業根室工場渡価格金八、三〇三、〇四〇円相当)を訴外太洋産業大船渡工場から根室工場まで運送する旨の運送契約を締結したところ、本件事故により本件車両に積載していた本件イカが本件船舶の車両甲板上に放出され汚損するに至つたが、そのうち汚損の少い一七、一四〇キログラム(二、一三八箱)については、訴外太洋産業と被告との話合により、被告が金二、六七二、五〇〇円で引取つたうえ訴外太洋産業においてこれを訴外島倉水産株式会社に右同額で売却することを仲介し、右売却代金全額を訴外太洋産業が受領して右金額を本件イカの毀損による損害賠償額から控除することとなつた。その後、原告は訴外太洋産業から本件イカの毀損による損害賠償として右被告引取売却分相当額を控除した残額金五、六三〇、五四〇円の支払請求を現実に受けることにより、その支払債務が生じていたことが認められる。しかし、成立に争いのない丙一、三号証および弁論の全趣旨によると、その後昭和五五年二月二八日、参加人が訴外太洋産業に対し、同五三年三月一日付運送保険契約に基づいて、右損害賠償金五、六三〇、五四〇円を原告に代つて支払つたことにより、訴外太洋産業が原告に対して有していた右同額の損害賠償請求権を参加人が保険代位により取得するに至り、現に本件訴訟にこれを理由に参加したうえ、被告に対し右同額の損害賠償金の支払を請求していることが認められるから、すでに原告には、本件事故による積荷(本件イカ)に関する損害は生じてないものと解するのが相当であるので、原告主張の右積荷(本件イカ)損害相当の損害賠償請求は理由がないものというべきである。

(三)  レツカー料

原告は、本件事故により本件車両が走行不能となつたため、訴外道東車体有限会社に対し苫小牧港から釧路市内所在の中央ターミナルまで本件車両を運送することを依頼し、昭和五三年七月五日頃、右訴外会社にレツカー代として金一三〇、〇〇〇円を支払つたので、本件事故により右同額の損害を被つたものである旨主張し、これに沿う証拠もあるが、前記(一)認定のとおり、本件車両を全損と評価してその損害填補を請求しながら、他方で、さらに全損として損害填補ずみとなるべき本件車両のレツカー代を新たな損害として別途請求することは、右損害賠償請求権を債務不履行責任として構成して訴求する以上、他に特段の事情のない限り、損害の二重填補を許容する結果となるものであり相当でなく、また、本件事故による被告の損害賠償責任を、本件運送契約上の債務不履行責任と構成する限り、これを商法七六六条(同法五八〇条、五八一条)の法意に照らすときは、本件車両の全損による被告の損害賠償責任額は、前記(一)の車両損害額に限定されるものと解するのが相当であるから(なお、前記3、(二)、(7)認定のとおり、被告には本件運送契約上の債務の履行に当り重大な過失があつたものとは認められない。)、原告主張の右レツカー代相当の損害賠償請求は理由がないものというべきである。

(四)  弁護士費用

一般に、債権者は債務不履行による損害賠償として債務者に対し、当該訴訟追行のために委任した訴訟代理人の弁護士費用を請求することは、民法四一九条の法意に照らし、債務者に右費用を負担させることが社会通念上相当であると認められる特段の事情のない限り、これを為し得ないものと解するのが相当であるところ、本件において、原告が原告訴訟代理人との間で、いかなる事情で訴訟委任がなされ、かつ、どのような内容の報酬契約が締結されたかについては、原告の主張がないので必ずしも明らかではないが、本件訴訟の経緯および弁論の全趣旨によると、もともと原、被告間の本件訴訟は、原告の本件運送保険契約上の保険者である参加人が、被保険者の原告の本件事故により被つた損害填補のための保険金支払請求に対して、特段の法的理由もなくして、右保険金支払を全額拒否したことにその主たる起因があるものと推認されるから、このような場合に、被告に対し、本件運送契約上の債務不履行たる本件事故と相当因果関係のある損害として、原告が本件訴訟追行のために委任した原告訴訟代理人の弁護士費用を負担させることは、損害賠償における基本理念である公平の原則に反し、かつ、民法四一九条の法意に照らしても相当でないものと解されるから、原告主張の右弁護士費用の請求は理由がないものというべきである。

5  過失相殺

前記3、(三)で判示したとおり、原告が本件事故により被つた損害について、六割の過失相殺がなされるべきであるから、前記4、(一)で認定した本件車両の損害金三、九〇〇、〇〇〇円から六割の過失相殺をすると、その残額は金一、五六〇、〇〇〇円となる。

6  損害填補

成立に争いのない丙二、四号証および弁論の全趣旨によると、参加人は、原告と参加人間の昭和五三年五月二六日付自動車保険契約に基づいて、同五六年三月二七日、前記4、(一)の本件車両損害の保険填補として金三、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたことが認められるから、損益相殺としてこれを前記5で認定した金一、五六〇、〇〇〇円から控除すると、本件事故による本件車両の損害として、原告が被告に対して請求しうる損害賠償額はすでに過分に填補されて零となる。

7  以上によれば、結局、原告は被告に対し、本件運送契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権を現在有していないものというべきである。

二  第八二号事件について

1  保険契約の締結について

前記第二、二、1の請求原因(一)、(1)および同(二)、(1)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  保険代位について

(一)  積荷(本件イカ)損害分

前記一、4、(二)で判示のとおり、昭和五五年二月二八日、参加人は訴外太洋産業に対し、右当事者間の同五三年三月一日付運送保険契約に基づいて、本件事故による本件イカの損害填補として金五、六三〇、五四〇円の保険金を支払い、これにより参加人は、同日、訴外太洋産業の原告および被告に対して有していた右同額の損害賠償請求権を保険代位により取得したものであるから、原告は参加人に対し、参加人が右保険代位により取得した損害賠償請求権金五、六三〇、五四〇円の債権を有することを確認すべき義務あるものというべきである。

また、本件イカの運送は、原告が訴外太洋産業からこれを引受け、さらに被告が原告から本件イカを積載した本件車両の運送を引受けることによりこれを引受けたものであるから、被告は、本件イカの運送について、その所有者である訴外太洋産業に対して、原告と共同してこれを安全に運送すべき責任を負担しているものと解するのが相当である。従つて、原告の訴外太洋産業に対する本件イカの損害賠償債務が、参加人の訴外太洋産業に対する右保険填補により代位弁済されている本件のような場合には、被告は参加人に対し、参加人が右保険代位により取得した損害賠償債権金五、六三〇、五四〇円およびこれに対する右保険金支払日の翌日である昭和五五年二月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきである。

(二)  車両損害分

前記一、6で判示のとおり、昭和五六年三月二七日、参加人は原告に対し、右当事者間の昭和五三年五月二六日付自動車保険契約に基づいて、本件事故による本件車両の損害填補として金三、〇〇〇、〇〇〇円の保険金を支払い、これにより参加人は、同日、原告の被告に対して有していた右同額の損害賠償請求権を保険代位により取得したものであるところ、前記一、3、(二)、(7)、ホおよび(三)で判示のとおり、本件事故の発生については、原告にも六割の過失が認められるから、参加人は右保険代位により原告の有していた右損害賠償債権を取得してその地位を引継いでいる以上、前記(一)の積荷(本件イカ)損害の場合と異なり、原告の右過失を被害側の過失として、参加人の被告に対する右損害賠償請求においても、これを斟酌して六割の過失相殺をするのが公平の原則に合致し相当であると解する。従つて、参加人が被告に対して、右保険代位により本件車両の損害賠償として請求し得べき損害額は、参加人が原告に支払つた保険金三、〇〇〇、〇〇〇円から六割の過失相殺をした残額金一、二〇〇、〇〇〇円およびこれに対する右保険金支払日の翌日である昭和五六年三月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきである。

また、参加人は原告に対し、参加人が保険代位により取得し、かつ、被告に対し行使し得べき損害賠償請求権金一、二〇〇、〇〇〇円の債権を限度としてこれが確認を求める権利を有するものというべきである。

(三)  よつて、参加人は原告に対しては、前記(一)、(二)で認定した損害賠償請求権金六、八三〇、五四〇円の債権を参加人が有することの確認を求める権利があり、また、被告に対しては、右同額の損害賠償金および各内金に対する各保険金支払日の翌日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利があるものというべきである。

三  第一〇号事件について

1  当事者の商人性

前記第二、三、1の請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  本件事故の発生について

同請求原因(二)の事実および同(三)の事実中、第一〇号事件原告(以下、単に「同原告」という。)主張のような本件事故が発生したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲二号証の一、二(原本の存在、成立とも)、乙六号証一ないし一二、七号証、一五号証の一ないし三、一六号証の一ないし六、一七号証の一ないし七、一八号証の一ないし七、一九号証の一ないし九、二〇号証の一ないし七、二一号証の一ないし四、二二号証の一ないし五、二五号証の一、二、二六ないし三〇号証および証人井口國雄の証言によると、本件船舶の中央線船首ランプウエイ付近の第三線に保管してあつた本件車両が右に横転した際、本件車両の反復移動、接触等の衝撃により、当時、本件車両の右側第二線前、後部保管の車両二台(別表番号5、4)、右側第一線保管の車両一台(同表番号1)、本件車両後方(第三線)保管の車両一台(同表番号3)、左側第四線前部保管の車両一台(同表番号6)、左側第五線保管の車両一台(同表番号2)に対し、それぞれ別表当該被害個所欄記載の各毀損を生ぜしめ、同表番号1ないし6の被害者名欄の各被害者に対し、同表当該被害額欄、損害明細欄各記載の各損害を被らせたこと、また、本件事故による損害拡大避止のために、同表番号7、8の被害者名欄記載の各被害者に対し、当該被害明細欄記載の各措置をとらせるに至り、そのため同表当該被害額欄記載の各支払を余儀なくさせて右各同額の損害を被らせたこと等により、同表被害者名欄記載の各被害者八名に対し、合計金一八、二八四、八六一円相当の損害を被らせたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

3  被告らの責任について

前記一、3、(二)、(7)、ニ、ホで判示のとおり、本件事故発生の原因は、第一〇号事件被告(以下、単に「同被告」という。)においては、同被告の従業員足澤運転手が、道路交通法五七条に違反し本件車両の法定最大積載量八、〇〇〇キログラムを三倍強も超過する本件イカ二五、三四四キログラムを本件車両に積載することを黙過放任したうえ、足澤運転手がこのような極端な過積み状態にあることを知りながらあえて本件車両の航送を申込んだこと、また、訴外シルバーフエリーにおいては、異常な過積み状態にある本件車両の航送申込みを拒絶し、右過積み状態の改善是正を待つてからこれを承諾すべきであるのに、これを看過して漫然本件車両を乗船させたうえ、佐藤船長が本件車両に対するオーバーラツシング装着作業を実施する時期が遅きに過ぎてその時機を失したことによるものであるから、同被告および訴外シルバーフエリーの右各所為は、第三者である前記2の各被害者に対し、過失による共同不法行為になるものというべきである。

4  保険契約の締結について

成立に争いのない乙二九号証および証人井口國雄の証言によると、前記第二、三、1の請求原因(六)、(1)の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

5  保険代位について

前記2掲記の各証拠および前記4の認定事実によると、第一〇号事件原告は、訴外シルバーフエリーとの間の昭和五三年四月一〇日付自動車航送船賠償責任保険契約に基づいて、本件事故により発生した別表被害額欄各記載の各損害の填補として、同表被害者名欄各記載の各被害者に対し、同表支払日欄各記載の各日時に、同表支払保険金欄各記載の各保険金合計一五、一七七、三一七円を支払い、これにより同原告は、同日、右各被害者が同被告および訴外シルバーフエリーに対してそれぞれ有していた右各支払保険金同額の各損害賠償請求権合計金一五、一七七、三一七円の債権を保険代位により取得したものであるところ、本件訴訟において、同原告は、同被告に対し、同被告と訴外シルバーフエリーとの本件事故についての共同不法行為における過失割合を七対三と評価したうえ、右損害賠償請求権のうち同被告の過失割合七割に相当する金員についてその賠償責任を訴求しているが、前記一、3、(三)で判示のとおり、同被告の過失割合は六割と認定評価するのが相当であるから、同原告が同被告に対し、右保険代位により本件各損害賠償として請求し得べき損害額は、同原告が右各被害者にそれぞれ支払つた各保険金の合計額金一五、一七七、三一七円の六割に相当する金九、一〇六、三九〇円(円以下切捨)およびこれに対する各保険金を各被害者に支払つた最終日の翌日である昭和五四年一一月二日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金をもつて相当と認める。

四  結論

以上のとおり、第二〇八号事件、第八二号事件については、原告中央運輸の被告シルバーフエリーに対する請求は理由がないからこれを棄却し、参加人の右原、被告に対する各請求のうち前示一、二の理由のあるものをいずれも認容し、その余はこれを棄却し、第一〇号事件については、原告日産火災海上保険の被告中央運輸に対する請求のうち前示三の理由のあるものを認容し、その余はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

別表

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